ワイヤロープ(以下、ロープ)は素線を数多く組み合わせた複雑な構造を有しており、その選択や仕様に当たっては、ロープの特長を知ることが大切です。
ロープの特長としては、一般の鉄鋼二次製品に比べて、
- 引張強度が高い
- 耐衝撃性に優れている
- 長尺物が得られる(運搬、輸送が容易)
- 柔軟性に富む(取扱が容易)
などが挙げられます。
一方、用途によっては、1)弾性係数が低い(伸びが大きい)、2)自転性があるなどが欠点となる場合もありますが、1)に対してはプレテンション加工、2)に対しては非自転性ロープを採用するなどの対応策がとられます。
構成
ロープの構成は、ストランドの数と形、ストランド中の素線の数と配置、繊維心入りか、ロープ心入りかなどによって変化しますが、ここでは一般的なロープの構成について説明します。
ロープは、図に示すように数本~数10本の素線を単層または多層により合わせたストランドを、通常は6本を心綱の周りに所定のピッチでより合わせて作られています。
ワイヤロープの構成
ストランドの数
ロープは、通常3~9本のストランドがより合わされていますが、特別の場合のほかは構造的にバランスのとれた6ストランドがほとんどです。ただし、エレベータ用のように、とくに柔軟性を要求される場合には8ストランド、また非自転性を要求される場合には、ストランドを2層以上とすることもあります。
ストランド数別ワイヤロープの断面例
同一径のロープでは、一般にストランド数が増加するほどストランド径は細くなり、ロープは柔軟性を増しますが、逆に強度は低くなり、耐摩耗性や耐形くずれ性などが劣ってきます。
ストランドのより方(素線の数と配置)
ストランドは、通常同一径又は異なる直径の7~数10本の素線が単層又は多層により合わされています。
素線を2層以上重ねて配置する方法には、各層の素線を同じより角でよる交差よりと、各層の素線が同一ピッチになるように1工程でよる平行よりとがあります。
同一径のストランドでは、素線数が増加するほど素線径は細くなり、ストランドは柔軟性を増しますが、逆に耐摩耗性や耐形くずれ性などが劣ってきます。
交差より
交差よりは、Cross Lay または各素線の接触状態から点接触より(Point Contact Lay)とも呼ばれ、ほぼ同径の素線を、各層別により角がほぼ等しくなるようにより合わせたもので、各層により込まれる素線の長さが等しくなり、各層間の素線は点接触状態となります。
したがって、素線に作用する引張応力は均等になりますが、点接触による曲げ応力などが付加されて、耐疲労性はあまり期待できません。
なお、このより方には、6×7、6×19、6×24などが属しています。
6×19のストランド
交差よりロープのストランド断面例
素線の配置には、1本の心線の周りに素線を6本、12本、18本、24本と等差級数的に6本ずつ各層ごとに増加する方法と、素線3本をより合わせたものを心にして、その周りに9本、15本と6本ずつ各層ごとに増加する方法とがあります。通常は前者の配置が圧倒的に多く、後者は中心の3本よりを繊維心(小心と呼称)に替えた6×24ストランド(a+9+15)に、その片鱗がうかがわれるに過ぎません。
平行より
平行よりは、Parallel Lay または Equal Lay とも呼ばれ、またストランディングの工程数から One Operation Lay、さらに各素線の接触状態から線接触より(Linear Contact Lay)とも呼ばれています。
なお、当社では平行よりロープをスーパーロープという商品名で呼んでいます。
平行よりは、ストランドの下層素線の谷間に上層素線が正しく重なるよう、各層素線をすき間なく配置させるために、それぞれ異なる径の素線を同時によったもので、各層素線は同一ピッチになって、線接触状態を呈します。
したがって、交差よりロープと異なり、各層素線のより角及び素線の長さは等しくありませんが、線接触となっているために耐疲労性が優れています。
なお、このより方には、6×Fi(25)、6×WS(36)、8×S(19)などが属しています。
6×Fi(25)のストランド
平行よりの代表的なものとしては、次の4種類があります(基本形)。
- シール形(Seale)
各層の素線数は1+n+nのように表され、内外層の素線数が同数で、内層素線の凹みに外層素線が完全に収まっています。
このシール形ロープは、他の平行よりと比べて外層素線が太いので、特に耐摩耗性に優れており、主としてエレベータ用として使用されています。 - ウォーリントン形(Warrington)
各層の素線数は1+n+(n+n)のように表され、外層素線には大小2種類あり、外層素線数は内層素線数の2倍で、内外層の組合わせによって隙間を少なくしてあります。
このウォーリントン形ロープは、最近ではあまり使用されていません。 - フィラー形(Filler)
各層の素線数は1+n+(n)+2nのように表され、外層素線数を内層素線数の2倍とし、内外層の隙間に内層素線と同数の細いフィラー線が充填されています。
このフィラー形ロープは、柔軟性、耐疲労性、耐摩耗性のバランスが良く、平行よりロープのうちで最も広範囲に使用されています。 - ウォーリントンシール形(Warrington Seale)
ウォーリントン形とシール形とを組み合わせたもので、耐疲労性が非常に優れ、また柔軟性に富み更に耐摩耗性にも優れているため、用途は広範囲にわたっています。
平行よりロープのストランド断面図
フラット形
ロープの外周がフラットになるようにストランドを組立てたもので、このロープは表面が平滑なため、ドラムやシーブの溝との接触による面圧が一般ロープよりも小さく、耐摩耗性に優れています。一般的には三角ストランドと蛤形ストランドとが多く、平ストランドはほとんど使用されていません。
- 三角ストランド形
従来は三角線の周りに外層素線をより合わせていましたが、最近は丸線をより合わせて三角形にした心の周りに、素線を1層又は2層より合わせた丸線三角心ストランドが一般的になっています。 - 蛤形ストランド形
断面が蛤形をしたもので、このロープは、一般には3または4ストランドとなっています。また、耐疲労性のほかに非自転性も兼ね備えており、広く使用されている当社のモノロープはこれに属しています。 - 平ストランド形(オーバルストランド形)
素線をだ円形により合わせたストランドを繊維心の周りに2層より合わせたもの(シンキングロープ)や、素線を多層により合わせたものを心にして、その周りに6~10本のストランドをより合わせたもの(コンセントリックロープ)などがあります。
フラット形ストランドロープの断面図
より方
より方向
ロープやストランドのより方向には、図に示すようにZよりとSよりとがあります。とくに指定のない場合はロープはZよりで、ストランド製品はSよりで作られます。
より方とより方向
より方
ロープのより方には、普通よりとラングよりとがあります。
- 普通より(Ordinary Lay, Regular Lay)
ロープのより方向とストランドのより方向とが逆方向によられています。 - ラングより(Lang's Lay)
ロープのより方向とストランドのより方向とが同一方向によられています。 - より方別特性の比較
より方の違いから、必然的に生ずる両者の特性の相違点は、表のとおりです。
ロープのより方別特性の比較
項目 | 普通より | ラングより |
---|---|---|
外観 | 素線はロープ軸にほぼ平行。 | 素線はロープ軸に対してある角度をなす。 |
利点 | キンクしにくく、取扱いが容易。 よりが締り、形くずれしにくい。 |
表面に現われている素線は長く、耐摩耗性に優れている。 柔軟で耐疲労性も良い。 |
欠点 | 耐摩耗性と耐疲労性はラングよりに劣る。 | ロープの自転性(トルク)が大きく、キンクを生じ易い。 |
ロープのより方別摩耗状態の比較
ロープ径
ロープ径には、公称径と実際径(実測径)とがあり、公称径はいわゆる呼び径です。一方、実際径は図に示すように、その外接円の直径を測定してmmで表します。
実際径の許容差は、JISでは公称径10mm未満は、10mm以上はとなっています。
当社では、ロープの構成にもよりますが、ロープ径200mmまで製造しています。